今週のヘッドライン: 2021年01月 1週号
自粛、巣ごもりなど「3密」回避の生活はすでに1年近い。新型コロナウイルスの感染収束はいまだに見通せない状況にあるが、コロナ後を見据えた新たな社会・経済のあり方を模索する動きは始まっている。人口の一極集中や効率重視の経済が感染拡大の一因と指摘され、田園回帰など地方への人の流れや小規模・分散型である農業・農村の機能は、持続可能な社会の構築にも貢献するものと期待されている。コロナ禍は、催事の中止や飲食店の時短営業に伴う業務需要の落ち込み、観光農園の集客減少など農業・農村にも多大な影響を及ぼした。すぐに正解は見えなくても、農業・農村側から動き、発信することで希望は生まれる。「農動的 ―― ここから始めよう」をテーマに、創意工夫で一歩踏み出そうと動く取り組みを特集する。
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やろうぜ!都市農業 都内での就農希望者集う ―― 東京NEO-FARMERS!(東京都)
〈写真:川崎さん(前列左)と共にCSAに取り組む先輩農家。KAJIYA FARM園主の志井淑子さん(前列右)、繁昌農園農場長の繁昌知洋さん(後列左)、lala farm table農園主の奥薗和子さん〉
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まかせろ!町のPR 独自ブランドを展開 ―― GOTTSO阿波(徳島県阿波市)
〈写真:GOTTSO阿波のメンバー。前列中央が寺井会長(写真提供=GOTTSO阿波)〉
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届け!茶を愛する心 小学生に入れ方を指導 ―― お茶屋戦隊茶レンジャー(静岡県富士市)
〈写真上:茶レンジャーの教えを受けてお茶を入れる児童ら〉
〈写真下:お茶をこよなく愛す茶レンジャー〉
政府は12月21日、2021年度予算案を閣議決定した。一般会計総額106兆6097億円で、農林水産関係予算の総額は、20年度当初予算比59億円(0.3%)減の2兆3050億円。15日に閣議決定した20年度第3次補正予算案では、農林水産関係に1兆519億円を措置した。当初予算と補正予算を「15カ月予算」として一体的に編成し、3兆円を超える財源を確保した。コロナ禍でも揺るがない生産基盤の強化や主食用米の需給安定に向けた作付け転換支援、5兆円目標の実現を目指す輸出力強化などに重点を置いている。
農林水産省は12月14日、主食用米の需給安定に向けた2021年産米などの対応策を自民党の農業基本政策検討委員会に示した。20年度第3次補正予算案で「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」(290億円)を措置。水田活用の直接支払交付金の「前倒し対策」として輸出用米、加工用米、高収益作物などへの作付け転換に10アール当たり4万円を助成する。21年度当初予算に計上した3050億円と合わせて合計約3400億円を確保し、過去最大規模となる約6万7千ヘクタールの作付け転換の達成を後押しする。
2020年産の農作物共済の共済金は、本紙が12月14日までに聞き取った結果によると、水稲が全国で約79億円、麦が約29億円となった。NOSAI団体は、昨年末までに支払い(一部仮渡し)をほぼ終えた。
農業者の努力では避けられない要因による収入減少を補償する収入保険。新型コロナウイルス感染拡大や自然災害が発生する状況でも、チャレンジする農業者の経営をしっかりと支え、取り組みを応援している。京都府でブランド確立や若手育成に取り組む株式会社農夢と、青森県で中山間地振興に挑戦する有限会社石田・農園の事例を取り上げる。
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京野菜栽培農家を育成 ブランド継承に若者雇用 ―― 株式会社農夢(京都府綾部市)
〈写真:「生でもおいしく食べられることをPRしたい」と白波瀬代表〉
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雪国の中山間地振興へ 運送事業展開し人材確保 ―― 有限会社石田・農園(青森県黒石市)
〈写真:実習生に指導する石田代表(右)〉
水田は、日本の耕地面積の過半を占め、水稲のほか、麦・大豆・野菜などの生産基盤となっている。主食用米の消費減少が進み、農林水産省は非主食用米などへの転換を進めてきた。一方で、国際化や少子高齢化、気候変動が急速に進む中、足腰の強い水田営農には5年先、10年先を見据えた中長期的な視点が求められる。稲作のコスト低減や転作の増収に関する最新技術とともに、水田の付加価値向上など将来に向けたヒントを探る。
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転作大豆:カットドレーン 重粘土圃場も乾燥早く ―― 株式会社GFM(富山市)
〈写真:大型トラクターに接続したカットドレーンと前田代表〉
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稲作:自動操縦ドローンで地中へ射出 空から精密に直播 ―― 石川県農林総合研究センター(石川県)
〈写真:低空飛行での播種。現状の機体は4条播きに対応する(株式会社オプティム開発)〉
「こんにちは、須藤牧場けん兄〈にい〉です!」――カメラに向かって大きな声で呼びかける、千葉県館山市安東の須藤健太さん(27)。乳牛約120頭を飼養する株式会社須藤牧場の後継者であり、動画投稿サイト「YouTube」で酪農現場の様子や情報を発信するユーチューバーでもある。特に、牛柄のシャツを着た"けん兄"として、子どもたち向けの動画を投稿することに力を入れ、酪農の魅力を伝え続ける。
後継者不足やコロナ禍の影響など、農業に逆風が吹いた2020年。それでも前を向いて挑戦を続ける畜産農家は、新たな年に意欲満々。1月1週号と3週号で、県内の畜産農家や学生が飼養で心掛けていること、目標などについて紹介する。
〈写真:九戸村の小井田寛周(こいだ・ひろのり)さんはクルミの木の周りに牧草をまいた。牛が集まり、牛ふんがクルミの増産に役立った〉
宮城は、清らかな水と米どころの良質な稲わらに恵まれた和牛の産地で、ブランド牛肉「仙台牛」は、厳しい評価基準により格付けされる。数回にわたり全国肉用牛枝肉共励会で日本一を獲得するなど、仙台牛の実力は全国区となっている。「コロナに負けない」 ―― ひた向きに経営を守る3組の畜産農家を紹介する。
栗原市の鈴木秀一さんは、肥育牛80頭と繁殖牛26頭の一貫経営で、「子牛のときから粗飼料を多く与えることで胃が大きく、よく食べる牛に育つ。肥育時に濃厚飼料を多く食べてくれるため体が大きくなる」と40年以上にわたって「いかに食べさせるか」を飼養管理で追求してきた。
〈写真:「栗原産仙台牛を多くの方に食べてもらいたい」と鈴木さん〉
北関東3県は、畜産業が盛ん。肉用牛や乳用牛、豚の飼養頭数をはじめ、生乳生産量や鶏卵生産量なども全国で上位を占める。「和牛」をテーマに、茨城県からはふるさと納税返礼品に採用される極上霜降り肉、栃木県からは畜産に青春を懸ける高校生、群馬県からは輸出に力を入れる食肉卸売市場を紹介する。
栃木県立真岡北陵高校の3年生3人は和牛の飼養に取り組み、「和牛甲子園」への出品に向け管理に余念がない。
〈写真:和牛甲子園に出品予定の「博28号」と共に左から荒井さん、田淵さん、舘野さん〉
地域特有の気候風土が育んだ在来作物・伝統野菜を後世に残すため、情熱を持って栽培に取り組む生産者たちを紹介する。
大阪市の藤本泰一郎さんは「なにわの伝統野菜」の一つ「田辺大根」を栽培。漬物店(3店)と契約栽培する他、大阪市中央卸売市場やJAの直売所へ約2500本を出荷する。
〈写真:「手間がかかる分だけやりがいを感じる」と藤本さん〉
長崎県特産の茶葉とビワ葉を使用するワンダーリーフ「美軽茶(みがるちゃ)」。県をはじめ、県立大学、長崎大学、九州大学の共同研究プロジェクトにより開発され、茶葉とビワ葉を生葉の状態でもみ込んで発酵させる「混合発酵製法」は、世界初の製造法として特許を取得している。発売から11年となり、2020年1月には県ブランド農産加工品「長崎四季畑」の認証を受け、さらに注目を集める「美軽茶」の開発・生産・製造・販売の現場を取材した。
「カテキン豊富な二番茶、三番茶の活用法としてワンダーリーフ美軽茶を生産していきたい」と話すのは、株式会社長崎ワンダーリーフ(東彼杵町)の代表取締役・大場和義さん。また、2014年3月から美軽茶の販売に携わる株式会社サンダイ(大村市)の営業部・吉野豊さんは「新たな県産品として『美軽茶』を広めていかなければならない」と話す。
〈写真:大場さん(右)と吉野さん〉
自分の夢をかなえるため自ら進んで農家になった女性たち。新たな目標に向かってチャレンジする姿を紹介する。
志布志市の窪田愛恵(かなえ)さんは「"求められる子牛"を追求」し、飼料設計を見直し、肥育に移行しやすい消化吸収の良い腹づくりを心掛けている。「『買いたい牛』と評価されたときがやりがいを感じる瞬間」とほほ笑む。
〈写真:「チャレンジを続ける農家でありたい」と窪田さん〉
▼昨年1月1週号の本欄で、子年は十二支が一巡して始めに戻る年と紹介した。しかし、新型コロナウイルスの世界的流行により、スタートが切れないまま、経済・社会全体が停滞する1年となった。ワクチン接種にめどが立ち始めたとはいえ、収束までの道のりはまだ険しそうだ。
▼えとの2番目に位置する丑年は、子年にまいた種が芽を出して成長する時期との解釈がある。丑という字には「ひも」や「からむ」との意味があり、種子の中に芽が生じている状態を指す。後に動物の牛の意味が加えられ、緩慢な動きでも一歩ずつ前に進む牛の歩みを反映し、丑年には「我慢」や「発展の前触れ」との意味づけがされている。
▼牛と人類との歴史は古く、中東や欧州を中心に食肉や酪農目的で飼養されてきた。日本には稲作と同時期に伝わったと考えられている。食肉や酪農は広がらず、主に農耕や運搬に利用する使役牛として飼養された。耕運や運搬、堆肥利用など農業との縁は深く、大切な労力であり財産だった。
▼世界各国がコロナ禍に直面する今年は、あわてず急がず効果的な対策を積み重ね、経済・社会の再構築につなげていく我慢の年となりそうだ。相当に難しい課題であるのは確かだが、十全の感染防止対策を講じて1年延期した東京オリンピック・パラリンピックを成功させてほしい。一流のアスリートたちが競う姿は、見る人に勇気や希望を与える。後戻りしないよう着実に歩を進め、次の段階にたどり着きたい。