今週のヘッドライン: 2021年02月 1週号
水稲種子を秋以降の積雪前に播種し、春に出芽させる省力・低コスト化技術「初冬直播〈じかま〉き栽培」が注目を集めている。岩手大学を中心とする研究グループが技術確立に向け、寒冷地7道県の大規模経営体で実証中だ。越冬に効果的な種子コーティングを施し、播種する乾田直播で、春の播種と同程度の収量を実現した。作業を農閑期に分散でき、労働時間や農機の有効活用に加え、豪雪や春の長雨など気象によるリスク回避にも期待される。
農林水産省は1月27日、「自然災害等のリスクに備えるためのチェックリスト」と「農業版BCP(事業継続計画書)」を策定、公表した。台風や豪雨、大雪などで農業関係被害が多発する中、農業者による備えを後押しすることが狙い。チェックリストでは、リスクの把握や予防など防災・減災の観点から農業者が備えておくべき項目を確認できる。被災後の事業継続に向けては「収入保険の補償内容を理解するとともに加入していますか?」などの項目もある。同省経営局保険課農業経営収入保険室の梅下幸弘室長は「事業継続計画策定に向けたチェックリストを自然災害の備えを見直す第一歩にして、収入保険や農業共済に加入するきっかけにしてほしい」と呼び掛ける。
2020年度第3次補正予算が1月28日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立した。新型コロナウイルス対策を柱に、一般会計の歳出追加額は21兆8353億円。農林水産関係に1兆519億円を充てる。公共事業費に4549億円、非公共事業費には5971億円を計上した。
「このコロナの状況を考えると収入保険には絶対に入っておくべき。観光は特に影響が大きく、今年も収入は下がるかもしれない」と話すのは、香川県三木町で観光農園を営む株式会社「森のいちご」の本田龍代表(42)。「最高の思い出づくりのお手伝い」を理念に掲げ、顧客にイチゴ狩りとともに、動物とのふれあいなど多様な楽しみを提供する。昨年はコロナの影響で顧客が大幅に減少したが、収入保険のつなぎ融資で経営を継続。収入保険が挑戦を後押しする。
肉用牛繁殖農家の減少で子牛の安定供給が課題となる中、人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)を活用した「周年親子放牧」の技術開発が進んでいる。牛舎を必要とせず初期投資を抑えることで新規参入を促すとともに、省力・低コストで収益力を高めた経営を確立することが狙いだ。衛星利用測位システム(GPS)による位置監視のほか、発情通知、安否確認など牧野で放牧牛の効率的な管理をサポートするシステムを紹介する。
毎年2月1~7日は「生活習慣病予防週間」だ。生活習慣病には、日本人の三大死因とされるがん・脳血管疾患・心疾患のほか、高血圧症や糖尿病などさまざまな病気が含まれる。食事の偏りや運動不足、喫煙・飲酒など生活習慣の乱れが原因とされる。農業者は普段から体を動かし、汗をかくことで、濃い味付けを好みがちだ。東京慈恵会医科大学大学院健康科学の和田高士教授に、生活習慣病を予防するために、ここでは食事面でどのような点に気を使うべきか教えてもらう。
【岩手支局】ホワイトアスパラガスを栽培する二戸市浄法寺の株式会社馬場園芸では、堆肥を改良して品質向上につなげた。また、自宅で栽培できる「ホワイトアスパラガス栽培キット」をインターネットなどで販売し、客層の拡大に成功している。馬場淳代表(31)は「自宅でも新鮮で甘いホワイトアスパラを味わってほしい」と意気込む。
〈写真:「昨年の収量は6トン。堆肥を改良したことで収量が増えた」と馬場代表〉
【高知支局】「若い人が農業で生活できれば人口流出を防げる。非農家出身でも、農業所得で子供を大学まで通わせるモデルケースをつくりたい」と話すのは、梼原町上本村で複合農業を営む玉川歳倍(たまがわ・とします)さん(69)。現在、親牛22頭を飼育するほか、水稲95アール、ハウス11アールで「土佐甘とう」、原木シイタケ1万2千本を栽培する。山間地の環境を逆手に取り、所得の安定を図るほか、研修生を受け入れて技術を伝えるなど若手の育成にも力を注ぐ。
〈写真:玉川さん(左)と、玉川さんの下で農業を学ぶ片木雄詞(かたぎ・ゆうじ)さん(40)〉
【広島支局】三次市作木町のNPO法人元気むらさくぎ(熊本孝司理事長=70歳)は、町内の農家からユズを買い取り、加工品を製造・販売している。これまで地域で取り組まれていた加工品作りを10年前に引き継いだ。現在は約30戸から年間5.5トンのユズを受け入れている。買い取ったユズは手作業で搾り、果汁と皮に分ける。同法人の加工場では、ポン酢やゆず茶、柚子味噌(ゆずみそ)に、残りの果汁と皮は業者に依頼し、ジュースやチョコレートなどに使う。
〈写真:剪定(せんてい)されていない木があるため、安全を考慮しながらユズを収穫〉
【宮城支局】「土壌の改善に加え、廃棄物の有効利用や軽くて簡単に散布できる点など利点がたくさんある」ともみ殻炭の有効性を話す山元町真庭の佐藤輝男さん(77歳、水稲7ヘクタール)。2020年3月にもみ殻炭の製造装置を導入し、水稲栽培のコスト削減と収量・品質の向上を目指す。製造装置の導入以前から、もみ殻の一部を炭にして畑に散布していて「土が軟らかくなり作物の根張りが良くなったため、水田にも効果的だと思った」という。
〈写真:もみ殻炭製造装置。ホッパー部に投入したもみ殻は、ベルトコンベヤーで奥の窯に流れる〉
▼昨年12月以降の大雪で、日本海側を中心とした広い範囲に甚大な被害が出ている。農林水産省によると、1月28日現在の農業関係被害額は26道府県で75億円を超えた。そのうち60億円超が農業用ハウスの倒壊などの被害で、件数は約1万1千件に上る。
▼福井県の施設園芸農家は、1月8日からの大雪被害をぎりぎり回避した経緯をブログにつづっている。それによると、予報をみて8日の夜からハウスの見回りや雪かきを開始。9~12 日は農作業をやめ、スタッフ全員で雪かきに集中した。一時は数棟をあきらめる覚悟をしたという。
▼実は、2018年の豪雪で被害を受けた経験から、事前準備をしていた。天気図など気象データの読み方を勉強し、建て替えたハウスは剛性の高い構造にした。前回は故障などで機能しなかった融雪装置は事前に点検と修理をすませている。さらに海外からの研修生には、動画をみせて雪かきの方法などを教えていたそうだ。
▼紙一重だったとはいえ、「備え」の積み重ねが功を奏したのだろう。ただ、過去には2月の豪雪被害も多い。園芸施設農家の方々には、あと少しの間、警戒を続けてほしい。