今週のヘッドライン: 2025年04月 2週号
農林水産省は、新たな食料・農業・農村基本計画をまとめた。食料安全保障の確保を基本理念に掲げた改正食料・農業・農村基本法に基づく初めての計画で、期間を5年間とし農業の構造転換を集中的に推進する。供給熱量(カロリー)ベースの食料自給率は現状の38%から45%に引き上げる目標を設定。担い手や農地の確保などの目標も掲げた。さらに実効性確保へ施策ごとの達成状況を評価するKPI(重要業績評価指標)を設け、年に1回検証・必要な施策の見直しを行うとした。国際情勢の変化に伴い世界の食料供給が不安定化する中、国内生産基盤に立脚した食料安全保障の確保は待ったなしだ。基本計画で掲げた施策の具体化・実行と必要な予算の確保が求められる。
東京都内で3月30日、全国から集まった農家らが「令和の百姓一揆」と題したトラクターデモを行い、農家の窮状や欧米並みの所得補償の実現などを訴えながら都心を行進した。
農林水産省は1日、政府備蓄米の買い戻し条件付き売り渡しの第2回入札(3月26~28日実施)の結果を公表。提示数量7万336トンは全量が落札され、合計落札数量は約21万トンとなり、政府の予定数量に達した。
落札価格(加重平均)は第1回に比べ495円安の60キロ当たり2万722円(税別)となった。下落は、2023年産米の割合が3万トンと落札数量の4割を占め、第1回入札(約3割)に比べ多かったことも要因とみられる。
農林水産省は、農山漁村体験研修の推進に向け事例集を公表した。人口減少・高齢化が進む中、都市住民や学生など「潜在的な就農希望者」に対し、産官学が連携して農作業やワークショップなど地域のさまざまな活動を体験する場を提供・事業化する取り組み。事例集では、NPOが橋渡し役を担って地域外の社会人とのマッチングを進める事業や、農泊研修を通じて移住・定住を目指す活動など6事例を紹介。同省はこれら先進事例の横展開を通じて農山漁村における新ビジネス創出や外部人材との関係づくりなどを後押しする方針だ。事例集と、このほど開かれた公開セミナーの概要を紹介する。
熊本県宇城市三角町の宮川水木さん(45)は、コチョウランを中心に生産する有限会社宮川洋蘭(花き=約100アール)を営む傍ら、採れたてのイチゴを使った「美味(おい)しいいちごのブーケ」を昨年12月から販売している。使うイチゴは、地域に人を呼び込もうと2023年から始めた観光農園「ウキウキランラン♪いちご狩り園」で生産。新しいギフト商品として開発を進めてきた。誕生日や結婚記念日などのハレの日を彩る贈り物として注文が増えている。
日本農作業学会は3月27日、新潟大学(新潟市)で講演会を開き、水稲を収穫前年の10~12月に播種する「初冬直〈じか〉播き」を取り上げた。担い手への水田集積が進む中、農閑期に作付けを分散することで春作業を軽減する新技術として関心が高まっている。2022年時点で東北や北陸など40ヘクタールで導入されている。北陸の導入農家からは、中山間地の湿田に対応した播種方式なども報告された。
【山梨支局】「年間の作業量を均一化したい。スマート農業に取り組むことで、作業量の把握と効率化を目指している」と話すのは、株式会社GRAPE BASEの代表取締役の山田春樹(やまだはるき)さん(35)。北杜市高根町でブドウの根域制限栽培(ポット栽培)を始め、自動散布機を使用した農薬散布にも取り組む。2024年には北杜市白州町に新たに8ヘクタール増やし、9ヘクタールまで規模を拡大。主に「シャインマスカット」を短梢剪定(たんしょうせんてい)して栽培している。
〈写真:誘引作業をする山田さん。社員向けに作業のマニュアル動画も作成中だ〉
【島根支局】海士町の株式会社まきはたは、乳牛の放牧飼育から搾乳・販売までを行い、放牧場の牧草を自給できるよう生産性向上に取り組んでいる。
掛谷祐一代表取締役(46)は2006年に大阪から同町に移住し、隠岐諸島の特徴である放牧による肉用牛の繁殖経営を開始した。2023年7月にふるさと納税を原資とした海士町未来共創基金を活用して、ジャージー牛5頭を導入。耕作放棄地4ヘクタールを借り受けて放牧を始めた。
〈写真:「ノンホモジナイズ低温殺菌仕上げで、生乳に近い味わい」と加工場の前で掛谷代表〉
【福井支局】「丹精込めて作った野菜のおいしさを多くの人に知ってもらいたい」と話すのは、越前町上野の「クロダ農園」・黒田創一郎(くろだそういちろう)さん(38)。自家産の新鮮な野菜を使用して、シャキシャキのレタスや芳醇(ほうじゅん)な甘さのイチゴを使ったボリュームたっぷりなサンドイッチを販売する。
〈写真:イチゴのサンドイッチは780円(税込み)で販売(写真提供=黒田さん)〉
【三重支局】松葉弘樹さん(58)は、いなべ市北勢町で米作りをしながら、団子店「弘福舎(こうふくや)」を営む。元JA職員で42歳の時に水稲農家へ転身し、作付面積を約3ヘクタールから約10ヘクタールに拡大。現在、主食用米約18ヘクタールと飼料用米約2ヘクタールを栽培しながら、NOSAI部長も務めている。
山間部のため、獣害が深刻で、より被害の大きい麦・大豆に転作せず、米作りに専念。その一方で、加工品として餅やかき餅を製造し、農閑期にはキッチンカーによる団子販売を始めた。昨年11月、長年の夢だった実店舗を開店。現在は金・土・日・祝日に営業し、春休みや夏休みなどの長期休暇は店を毎日開く。キッチンカーも引き続き活用し、地元のイベントにも出店する。
団子の原料は自家栽培の米だ。品種は冷めても軟らかい食感が続く「ミルキークイーン」。米粉100%の生地を松葉さん自らが手作りする。団子は注文を受けてから焼き始め、まず白焼きし、しょうゆを付けて2度焼き。その後、しょうゆ、甘辛タレ、きなこの3種類で味付けする。焼き始めると店内には香ばしいしょうゆの香りが広がる。
〈写真:店の看板の前で笑顔の松葉さん〉
▼ミャンマー中部で発生した大地震の死者が3000人を超えた。同国政権は災害対応を優先するとして国軍に抵抗する少数民族武装勢力との停戦を発表。現地映像を見るだけでも内戦を続けている場合ではないことは明らかだ。被災者に必要な支援が届くよう、国際社会の協力も欠かせない。地震大国として多くの経験を持つ日本も積極的に支援したい。
▼大地震を巡っては、国内の防災対策の抜本強化も急務だ。政府は3月31日、南海トラフ巨大地震の新たな被害想定を公表。全国で最大29万8000人が亡くなり、最大235万棟の建物が被災、経済被害は292兆円に上るとする。今年1月には30年以内の発生確率が従来の「70~80%」から「80%程度」に引き上げられた。危機は近づいている。
▼自分に都合の悪い情報を避けたり、過去の経験などから事態を過小評価したりする認知の特性を心理学用語で「正常性バイアス」というそうだ。巨大地震はどこでも起きうる。自分や大切な人の命を守るために、平時から"もしもの備え"が大切だ。