今週のヘッドライン: 2025年09月 3週号
「牛乳パックを見て、生産者が目に浮かぶくらい身近になればいいかな」と話すのは、広島県北広島町で西原牧場を営む西原嘉一さん(47)。酪農教育ファームの認証牧場として毎年約100人の体験を受け入れている。1日1組限定(最大6人)で、一緒に"お仕事"をしてもらうスタイルだ。妻の美和さん(45)は「私たちの普段を感じてもらいたい」と来訪者一人一人に接している。酪農戸数の減少に伴い、認証牧場も減少傾向にある中、酪農体験をしてみたいという消費者の扉を開くとともに、酪農家のリアルや思いを伝える取り組みを続けている。
農林水産省は9日、都道府県別の「地域計画」の分析結果を公表。17都府県で10年後の受け手不在農地の割合が5割を超えていることが分かった。小泉進次郎農相は閣議後会見で「大変厳しい状況」と指摘。計画内容のブラッシュアップを進めると同時に、優良事例の横展開をはじめ担い手の確保や農地集約化などを後押ししていく方針を強調した。地域の将来像を描く地域計画は、政府が掲げる農業構造転換推進の土台だ。地域の話し合いを促して計画内容の充実を図るとともに担い手が育つ環境づくりを急ぐ必要がある。
政府は9日、米国の関税措置に関する総合対策本部を開催。石破茂首相は、米大統領令の発出を受け「合意の誠実・速やかな実施が重要」とし、関税措置の最新情報の分析・提供や資金繰り支援など影響の極小化に万全を期すよう指示した。合意内容の実現へ履行状況の管理も求めた。
大統領令は5日に発出。日本産品への「相互関税」を軽減する特例措置を明記した。従来の税率が15%以下の品目は15%に統一し、15%以上の品目は追加関税は適用されないことが確認され、8月7日以降の超過税率分はさかのぼって還付される。
全国各地で集中豪雨が多発し、8月下旬以降は台風12号と15号が相次いで襲来、農業にも大きな被害が発生している。本格的な台風シーズンを迎え、引き続き最新の気象情報を注視するとともに被害の防止・軽減に努めたい。園芸施設の大雨対策のポイントなどについて、稲穂ちゃんがみのるさんに聞いた。
自家用栽培も、秋冬野菜の種まきシーズンとな
った。菜園プロデューサーとして野菜の栽培技術
を教える「唐草ナレッジ」の斎藤弥生子さんに、
失敗しない種まきのコツを教えてもらう。
栃木県農業総合研究センターは、株養成や捨て刈りを必要としない「1年1作」のニラ栽培技術を検討。6月定植の作型では「育苗期間90日・4粒播種」の条件で最も多い可販収量と粗収益が得られることが分かった。同センターでは、夏場の収量増やハウスの効率的な利用が可能となり、収益性向上が期待できるとしている。
水稲36ヘクタールと大豆4ヘクタールを栽培する秋田市金足のファームビルド株式会社は、スマート農機などを活用して大規模経営を視野に入れている。さらに農家のサポートも行い、地域全体で持続可能な農業経営を目指す。
〈写真:「稲刈り後すぐに大豆に切り替えられるのがメリット」と畠山周(めぐる)代表(52)。稼働前に普通型コンバインを点検する〉
【群馬支局】「毎日がチャレンジ、自分たちのやり方を見つけたい」と話すのは、藤岡市藤岡の宮前むつ美さん(49)、新井直美さん(47)。2023年7月に就農し、共同でイチゴ約6アールとナス24アールを栽培する。
〈写真:息の合った作業をする宮前さん(右)と新井さん 〉
【山口支局】防府市でタマネギ40アール、キャベツ1ヘクタール余りを栽培する「のうの農園」では、地域の加工場や高校生との連携を通じて、タマネギの新たな可能性を広げている。
運営する能野哲也さん(51)、房子さん(57)夫妻は、余ったタマネギを長く味わってもらおうと、昨年からピクルス作りに挑戦。地元加工場に委託し、賞味期限半年の商品化に成功した。甘みの強い同農園のタマネギは、漬け込むほどにうまみが引き立ち「体に良くておいしい」と評判を呼んでいる。
〈写真:「タマネギを通じた新しい取り組みは、何よりの喜び」と能野さん夫妻〉
【福島支局】芸術系の大学院に通う須賀川市の木村晃子さん(23)は、地元の道路に不法投棄されるペットボトルに入った尿を液肥化し、遊休農地での観賞用ヒマワリ作りに利用している。
〈写真:栄養過多のため、希釈し濃度を下げた液肥を散布〉
▼相場の格言の一つに「山高ければ谷深し」がある。日経平均株価が史上最高値を再び更新した。11日には一時4万4200円を突破。欧米主要国の株価が堅調な上、石破茂首相の退任表明による次期政権への期待などが要因とされる。
▼ただ、株高の恩恵に対する庶民の実感は薄い。むしろトランプ関税の影響や戦争・紛争の拡大、気候変動に伴い地球規模で頻発する自然災害など世界経済が直面する多くのリスクを前に、バブル崩壊やリーマン・ショックなど苦い思い出すらよみがえる。ちなみに相場には「上り100日、下げ10日」という格言もある。上昇は時間がかかるが下落は一瞬という意味だ。
▼相場でいえば、米価の先行きも気にかかる。新米価格は軒並み直近20年の最高値となるのは確実な情勢。ただ、政府は2025年産米が平年作なら来年6月末の民間在庫量は直近10年で最大の水準になると見込む。輸入米が増加し、米の消費減退も指摘される中、一部流通関係者の間では現下は"新米バブル"との声も出始めている。
▼相場は「谷深ければ山高し」ともいう。米価は少し前まで長らく谷底だった。ようやく景色が見渡せるようになってきた矢先、再び暗く深い谷に落ちるとなれば、農家の増産意欲は一気にしぼむ。相場格言「天井三日、底百日」では稲作経営は成り立たず、主食の安定供給は一層遠く。